同四年八月、九鬼嘉隆は志州鳥羽から安土に呼び出された。すでに滝川一益が先着して控えている。小姓衆らが一糸乱れず入ってきたのと対照的にどかっと座った信長は直ちに命令を下す。
「火に強い南蛮船を造れ。甲鉄を張りつけた大安宅船じゃ。今までの安宅船三艘がすっぽりいる程の大きさの南蛮船に射程距離のある大筒を数門搭載する。海の出城と言えるほどの甲鉄船を造れ。攻撃、防御とも敵に数段勝らねば戦には勝てぬ。よいな」
「ははー」
「一益を造船奉行に命ずる。大安宅船は伊勢の大湊で造れ。大湊の船大工は造船技術に長けている。それに伊勢で造るのは毛利に気取られぬためでもある。先に北畠の筆頭家老鳥屋尾を始末しておいたのもそのためじゃ。鳥屋尾の誅殺を知り、北畠の反動分子が騒いでいると聞くが、織田に馴染まぬ者は具教ともども近いうちに粛清する。完成までには一年はかかるであろう。その間、わしは雑賀党を粉砕する。嘉隆は心置きなく甲鉄船を造れ。造れるだけ造るのじゃ」
「ははー」
 両名は恐懼してその場を引き下がった。