一方、十津川村に亀寿丸を守って避難していた国司家の女佐の臣与志摩は、一志村波多の横山の御台屋敷のことが気になり、亀寿丸と若葉は、お槇やお多紀、それに鶴千代に任せることにして、與次郎と一時、戻って見ることにした。五年ぶりに帰る御台屋敷は、荒れに荒れ、無人の廃墟と化している。早速、二人して風雨に傷んだところを修理することにした。與次郎に板をもたせ羽目に打ち付けていると、木戸を開けて老人が入って来た。
「やっと戻られたか、与志摩殿…」
 すでに腰の屈まったその老人を良く見ると北畠国永であった。
「おお、国永殿、お元気でなによりじゃ…」
 与志摩は手を休めてしばし久闊を叙した。
「与志摩殿はこのお屋敷でお生まれになった具房様が亡くなられたことをご存知か…」
「いや…」
「そうか…。具房様はな、三年前の一月五日、幽閉先の蟹江の滝川本城でお亡くなりになった。三十四の若さであった…」
「そうでござったか。それがし、女佐の臣として松姫様にお仕え致しながら、お方様をお守りすること叶わず、そればかりか、嫡男具房様のお役にも立てず甚だ心苦しく申し訳なく思っております…」
「…そう、ご自分を責められまするな。そなたには観音寺のお屋形様ご一族をお守りする大切な役目がござった。これまで随分ご苦労をなされたことであろう…」