「あれじゃ。よいか、まず借り受けた付近の郷民に囲ませる。馬の動きが止まったところを討って出る」
「よし」
 皆一斉に葦や茅の茂みに身を屈めた。川原に下りてきた穴山の一行は馬の背丈程の茅の茂みに一時、姿を隠した。
やがて茅の間から姿を現した一行は、突然、土民に囲まれた。
「追剥か、それとも一揆の者か。金ならたんとあるぞ」
 梅雪がうろたえて己の懐を探る。
「また金か、わしには銭は通用せぬ。そなたの裏切りによって悲惨な目にあい、不幸のどん底に突き落とされて死に絶え、未だに成仏できず冥界を彷徨い続ける多くの人々に成り代わって仇を討ってやる。その場に直られよ」
 高定が言い終わると、左京之進が梅雪を馬から引きずり下ろした。なおも逃げようとするのを又市が制して直ったところを高定が一刀のもとに切り捨てる。

川原に降り注ぐ残照のなかで、無人の馬が数頭、首を振りながらのんびりと草を食んでいる。草内の渡しを何事もなかったように対岸に引き上げていく一団があった。木津の川浪がいく筋も線を引いて白く輝いている。