すいかの種を、口から庭先に飛ばしてその距離を目測する。
おう、このクソ暑い中がんばっとるなあ高校球児と、テレビで甲子園の熱戦を見ながらの事だった。
種飛ばしを繰り返すうち、そのコツを掴むと同時に自分のやっている事がバカらしくなった。
ナイターとなった延長戦の末に地元代表校はサヨナラで負けて悔しい涙に暮れたというのに、同世代の俺はなにやってんだ?
考えることもアホらしくなって水のシャワーを浴びる。部活も辞めてしまった俺が夏休みにやることは何も無い。
短パンを履いてヘインズのTシャツに着替え、
「母ちゃん、蚊取り線香。折れてないやつね」
俺はそれを受け取ってから自分の部屋へと上がった。
マンガ本を流し読んでいると玄関チャイムが鳴り、すぐに母親が大声で笑う声が聞こえる。
どうせまた、隣のおばはんが回覧板持ってきたついでの長話に付き合ってくだらないゴシップで盛り上がっているのだろう、俺はCDを鳴らしてそれを掻き消す。
母子家庭故の気楽さからだろうか、うちは昔からおばはん連中のたまり場ともなっていて、居合わせると何かと煩くて面倒なのだ。
ちょっと降りておいで義徳――などと母親から呼ばれる前にベッドから起き上がり、食べ掛けのポテトチップを手にして部屋を出る。
ベランダから二階の屋根によじ登ると、屋根裏部屋の小窓の横に平らなスペースがある。
親父が死んだあと、子供の頃に見つけたそこが俺の居場所だった。
寂しい時、むしゃくしゃした時、悲しい時はここで一人泣いた。