勤めている歯科医院から連絡が来たのは日曜日の12時を過ぎた頃だった。
非常勤務と言っても、よく患者が入る歯科医院の為、日曜日でもいつでも出勤準備をしていた加奈子は二つ返事で了承し、職場へと向かった。
外は春なのに少し日差しが強く、薄っすらと額に汗がにじんだ。
加奈子のマンションから歯科医院までは徒歩10分程度。
程なく着くとロッカー室で白衣を羽織り、受け付けへと向かう。
『あ、鮎川先生。おはようございます。』
受け付け係りの同僚である、小島直子が声を掛けた。
『おはよう。患者さんは?』
『今スケーリングをしてます。』
『状態は?』
『右下の親知らずが疼くそうです。』
『そう。じゃぁ、レントゲン撮っておいて。』
『わかりました。』
加奈子は診察室へ向かい、手を洗いカルテを眺めていた。
『鮎川先生、横溝さんのスケーリングとレントゲン終わりました。』
『はい。』
加奈子が診察台の横の椅子に座り、レントゲンの様子を診た。
『横溝さん。痛みは?』
振り返り、健太郎を見据えた。
『物を食べる時痛くて…後、何も口にしてなくても疼く感じです。』
『そうですか。では、台を倒しますね。───お口を開けて下さい。』
台を倒し、健太郎が口を開けた。
『…大分腫れてますね。レントゲンを診ても膿が溜まってるので、今日は膿を出しますね。』
そう言うと加奈子は器具を手にした。
───────
『では、抗生剤を出しときますので一週間飲んで下さい。腫れが収まっていたら来週、親知らずを抜きますね。』
『はい…ありがとうございました。』
『お大事に。』
加奈子も立ち上がり、健太郎を見送った。