俺はどうかしている。
まだ会って間もない女性に、おぼれてしまいそうだ。
「ありがと。そうだね。結婚を控えた男は、恋なんてしちゃいけない」
恋なんてしちゃいけない。
そうなんだ。
わかってる。
でも……
俺は言えない気持ちを瞳の中に込め、平野さんを見つめた。
そして、また医者の顔に戻る。
次はいつ会えるんだろう。
そう思ってしまう自分を消そうとしたが消すことなんてできない。
それから数時間後、患者さんが誰もいなくなったので、俺は由美子へ電話をかけた。
俺から電話をすることも珍しい。
俺は由美子に対してはいつも受身で。
忙しいだろうからと、俺から電話をすることもなかった。
冷たくされたかった。
今の俺の気持ちを正当化するために……
由美子に冷たい対応をして欲しいと思った。
―ほら、こんなに冷たくされるから俺は他に好きな女性ができたんだ―
自分に言い訳が欲しかった。