バレンタインの約束も由美子とはしていない。
由美子は音楽のプロ。
世界を飛び回る演奏者。
だから、彼氏をほったらかしにしていいの?
「何が言いたいんですか?」
俺の心を見透かすように、鋭い口調で平野さんは言った。
こういうところも俺の好み。
ズバっと言いたいことを言うんだけど、キツくはなく、その後の笑顔がかわいい。
「知ってます?バレンタインっていうシステム」
ふざけた俺に向かって、平野さんはお姉さんのような表情をした。
ちょっと上から目線の顔で。
―仕方がないわね、瀬名先生ったら―
そんな感じ。
「へー、そんなシステムがあるんですか?知らないですね~」
一枚上手な平野さん。
ニヤっと笑い、視線を外す。
「じゃあ、教えてあげる。お世話になっている人とか、好意を持っている人に愛を込めてチョコレートを渡すっていう日なんです。それが来週の週末なんですね~」
ついつい本気モードの声を出してしまう。