「どうぞ」
これから仕事に行くのだろうか。
今日の平野さんは、キャリアウーマンっぽい雰囲気でいつもと感じが違う。
メイクもいつもよりも完璧で、俺は我を失いそうだった。
俺は、自分用の弾力のある椅子を貸した。
これは平野さんだからじゃない。
腰の悪い患者さんや背中の痛い患者さんにはいつもしていること。
俺はまだ猫をかぶっていた。
平野さんの前では「おれ」なんて決して言わない。
爽やかなドクターぶって。
「僕ね~、甘いものに目がないんですよ」
俺はデスクの上のカレンダーを見ながら言った。
迫っている。
バレンタインが。