―瀬名先生―
平野さんが俺の前に現われてから俺の頭の中は彼女でいっぱいだった。
俺はたいした用もないのに彼女に電話をかけた。
医者になってから初めてだ。
電話をかけた後、俺は後悔した。
電話をしてしまったために、俺の心の中の平野さんはますます大きくなった。
ただの「好感の持てる女性」で止めておけば良かった。
だってさ。
彼女って電話で話してもすごく感じが良くて、ユーモアのセンスもあって。
電話越しの声だけで、俺を癒すんだ。
週に何度か彼女は診察を受けに来た。
俺は毎日ドキドキしていた。
今日は来るだろうかって。
待っているせいで、いざ彼女がやってきたら、ぎこちない態度になってしまう。
平野さんは俺のことどう思っているのだろうか。
そんなこと考えてしまう俺は間違っている。
俺には結婚を考えている彼女がいるっていうのに。