「仁ノ介君以上の男はなかなかいないぞ」
帰り道、私は由美子に言った。
そうだね、と由美子は笑った。
「でも、お前に合う男ならたくさんいる。素敵な男を掴むためには、自分自身を磨かなくてはならない」
由美子は、ただ黙って頷いた。
今日の日のことを一生忘れないだろう。人間として恥ずべき行動を取った。
自分をかばうわけではないが、守るべき大事なものの為になら、人間は思わぬ行動を取ってしまうものなんだ。
この歳になって、初めて気付くこともある。
自分の弱さを知った。
今度、私が必死になるのはいつだろう。
由美子が新しい男を家に連れてくる日、私は必死になって、反対するかも知れない。
仁ノ介君と比べてしまうと、どの男もダメ男に見えてしまう。
「ごめんね。お父さん」
「お父さんこそ、悪かった。これからは、お前の好きにしなさい」
私と由美子は、ケーキを買った。
妻の好きなモンブランを3つ買い、笑顔で家まで歩いた。