「由美子の母親は持病がありまして、そう長くはないんです。あいつは、由美子と仁ノ介君の結婚を誰よりも楽しみにしていたんです。どうか……仁ノ介君を返してはもらえませんか」




さすがだな。


一瞬表情が変わった。



この彼女は、優しい人だ。


持病のある妻の話をすると、さっきまでの強い表情が消えていた。




「私は、仁ノ介さんを愛しています。由美子さんも仁ノ介さんを愛していると思います。好きになる気持ちは誰にも止められないし、自由です。でも……お金を使って、私の気持ちを変えようとするのは卑怯だと思います。私、お金なんかで気持ちは変わりません。でも、お母様のお話は……胸が痛みます。でも、だからと言って、別れることはできません」




何をしても仁ノ介君と彼女を別れさせることはできないんだと感じた。



彼女の言葉には説得力があり、とても強い愛情が感じられた。