仁は、私の両親に謝罪したいと言い、家に上がった。
婚約解消の話は何度もしていた為、私の親も仁の顔を見て、話の内容はだいたいわかっているようだった。
仁との出会いは医者だった父の紹介。
仁にとって、私の父は恩師。
恩師の娘との婚約破棄は、仁にとってはこれ以上ない気まずい出来事だと思う。
頭を下げる仁。
もうわかったから、と父は言った。
でも、母は一言も声を出さずに、ただ涙を流していた。
母は病気を持っていた。
父は、母に娘の結婚式を見せてやりたいと思い、仁を紹介したと言っていた。
音楽ばかりの私は、放っておくと、一生独身なんじゃないかと心配していたようだ。