「香織……」
仁の声。
隠れていたその女性を『香織』と呼んだ。
もう疑う余地もない。
この人が、仁に愛された女。
受付嬢は、『香織』という女性と面識があるらしい。
どうしてここにいるのかと大声で叫んだ。
そうか。
患者……
香織さんは、仁の患者らしい。
患者に手を出すなんて!と受付嬢は怒鳴ったが、きっと仁は手を出したわけじゃない。
患者に色目を使うような男じゃない。
天然なところがあるから。
普通に接しているだけで、患者さんを誤解させてしまうこともあるんじゃないかな。
どうしてだろう。
フラれてから、仁のことを理解できるようになってきた。
もう少し早く、こんな気持ちになっていたら……
仁に優しくできたのに。
仁に選ばれる女になれたのに。