私はもう一度、仁のいる部屋へと戻った。
足音を立てないように静かに静かに……
廊下には、受付の女性の甲高い声が響いていた。
ものすごい発言をする女。
---愛人でもいいんです!!
だなんて……
私には言えない。
プライドが許さない。
病院の廊下の曲がり角を曲がると、私と同じように足音を殺しながら歩く女性がいた。
華奢な後姿。
細身だけど、健康的で、受付嬢のようなフェロモンむき出しの香りがしない。
この人が仁の相手だとしたら、私も受付嬢も……
かなわない。
この人は『女』を武器にしていない。
そんな気がした。