「送るから車で待っていてくれ」
私が扉に手をかけると、扉の向こうからすすり泣きが聞こえた。
「君…… 」
仁が扉を開けると、受付の女性が崩れるようにして泣いていた。
「瀬名先生…… どういうことですか?」
私が代わりに答えてあげる。
「あのね、私……仁の婚約者だけど、フラれちゃったの。だから、私は仁とは結婚しない」
あからさまに表情を変えた女性は、すがりつくように仁に近付いた。
「由美子、車で待っててくれ。彼女と話がしたい」
感情的な女は嫌い。
こういう男にこびるような女も好きじゃない。
でも、今私はこの受付の女性に対して、親近感を覚えた。
私ができないことをサラってできる彼女。
本当は私もああやって、泣いてすがりついて、仁を取り戻したいのかも知れない。
私と彼女が重なって見えた。