「瀬名先生から絶対連絡しないでくださいね。香織先輩、本当に苦しんでるんです」
「そう言われても…… どうしても一度話がしたいんだ」
目の前が真っ暗になる。
俺は、香織を失うかも知れない。
俺の未来。
俺の将来。
結婚して、子供を産んで、温かい家庭を築く。
俺の隣にいるのは香織。
香織を愛してから、俺は驚くほど結婚願望が強くなった。
由美子との結婚生活は、あまり具体的に考えたことがなかったが、香織との生活はどんどん具体化していて、俺は眠る前いつも想像していた。
香織と一緒に家具を選んで、香織と一緒に新居を選んで……
新婚旅行はどこへ行こうか。
結婚後は、香織はこの病院で手伝いをしてくれるだろうか。
いろんなことを考えては、幸せをかみ締めていた。
由美子とのことで悩んだ夜は、香織のことを考えて、気持ちを切り替えていた。