車から降りた平野さんは、少し照れくさそうな笑顔で俺に手を振った。 俺はその背中が見えなくなってもまだ車を走らせることができなかった。 胸がいっぱいで。 心が満たされて、幸せすぎて涙が出そうな。 こんな感情、味わったことはない。 俺は、本気で人を愛したことがなかったんだと改めて気付いた。 まだ残る愛しい人の香り。 温かいシートに手を伸ばし、届かない声でつぶやく。 「俺が迎えにくるまで待ってろ」