会社や学校で今日のネタにするのだろう。
『今朝、泣いている男の子を見た』と。
それを聞いた人たちは笑って、食いつくんだろ?
俺は一躍有名人だ。

なんて自分で言った冗談を鼻で笑い、指で流れる涙を祓った。

こんなことでくよくよしていられるか。
ましてや今日は入学式だ。
新しい出会いがあるはずだ。

自分に言い聞かせるように、俺は前を向く。
だけど俺は美加が好きだった。
そんな大好きな美加から突然別れを告げられて、平気なはずがない。

春の心地よい風が、また俺の体に当たる。


『大丈夫よ』と言ってくれるかのように。


『雅、なにしてるんだ?学校に遅れるぞ』


後ろから聞こえてきたのは、寝間着姿の父親だった。


道路に立ち尽くしている俺を、父さんは不思議そうに見る。



『なんでも、ない』


鼻を啜りながら、俺は父さんに近づいた。
父さんはいつもと変わらない笑顔を俺に向ける。