『しょうがない?確かに自分の気持ちは自分にしか分かんねぇけど、美羽には陸がいるんだぞ?!分かってるよな?!』


春の声が大きくなっていく。
そしてついに、春の瞳からは我慢出来なくなった涙が一滴だけ零れ落ちた。
その涙は下へ落ちるたびに加速を速くする。
そしてその涙が落ちたのは、俺の制服の上だった。
制服に染み込み、変な模様を描く。
春も泣き虫のようだ。
美羽と同じくらいに…




『陸を…陸を超えればいいだろ?俺が。美羽の一番になればいい話だ』


俺の胸ぐらを掴む春の細い手を掴み、俺はこう言う。
それを聞いた春の目が大きくなる。
唇を噛み締めて、胸ぐらから手を離した。
解放される俺。
俺はカッターシャツを握り、『はぁ…』と呼吸をする。

すると春は下を向いたまま、小さく…不気味に笑い出した…。



『はは…お前が陸を超えるって?』


『あぁ…』



もうこの公園から桜の姿はない。
あと少しで…美羽が嫌いな季節がやってこようとしていた。