「あの……」

 後ろから声をかけられて振り返ると、蓮音のクラスメートが立っていた。

「蓮音のクラスメートの……」
「久原紅です」

 丁寧に頭を下げた。
 蓮音に見習わせたい礼儀正しさだな。

「どうしたんだ?」
「あの……」

「あー飛夜〜うわきだ浮気〜」
「陸……何が浮気だ?」

 全く意味不明だ。

「……あ!飛夜〜一年の教室に教科書忘れてきちゃった☆」
「は?」
「持ってきてーヨロシク☆」

 意味分からないまま陸に押されて何故か取りに行かされる。
 何で取りに行かされるんだ……?
 理不尽ながらも、何故か足が来た方向に動く。

 久原紅……どこかで見たことあるような……目つきと雰囲気。
 本人を見たことあるわけじゃなくて、似たような人を見たことがある。



「お兄ちゃんどうしたの?」
 教室の前に来ると、移動教室なのか蓮音とはち合わせた。

「陸が教科書忘れたらしい」
「陸先輩が?」
「あ、センパイ」

 陸弟が蓮音の横から顔を出す。……一緒に行ってるのか?

「兄貴の教科書よろしくっす」
 俺は受け取ると、走らず急いで戻った。