目覚めると、彼は自分が全くの独りぼっちであることに気が付いた。感覚は何もない。ただ、思考だけが宙を漂っているのだ。気持ちは悪くない。ただ、感覚を失ってしまったことに一抹の違和感を抱いてしまう。はたと彼は理解した。「ぼくは死んだのだ。」
 なるほど、死後の世界とはこのようなものだったのか。生きている間は、死後という未知の世界に対してあれこれ思いを巡らしたものだ。一日の大半を答えの出ない思考に費やしたこともある。未知の世界を恐れて、跳び起きてしまったこともある。しかし、実際のところは実に呆気ない。死ぬ過程すら覚えていない。幸せな内に死んだのか、苦しみながら死んだのか、全く覚えていない。