「はぁ?」
「だからぁ、引っ越しちゃうんだってば。」
目の前にいる、俺の大切な大切な女の子。
彼女はすっぱりきっぱりそう言ってくれた。
「いつ?」と聞けば「今日。」って。
「なんで言わなかったの?」
「言ったらなんか変わってたぁ?」
「なんでそんなクールなの?」
「結構動揺してんだけどな。」
そう言って、眉根を下げて、彼女はクスクスと笑った。
「言わなくてごめんね。」
「また会えるんだよな?」
「わかんない。」
「そっか。」
「行くなよ。」
喉まで出かかっているたった四文字の言葉が出ない。
「好き。」
なんて二文字すら言えなかったヘタレな俺だから、
四文字が出るわけもないんだけど。
「それじゃ、私行くから。」
「おー。気をつけてな。」
「メールするからね。」
「へいへい。」
「じゃぁね。」
「―――あぁ。」
バタンとドアが閉まる音。
あぁ。
あの細い手首を掴んで引っ張って、
華奢な身体を抱きしめて、たった四文字。
それをするだけだったのに。
それをすればよかったのに。