「え、殿?ちょ、何?」


 僕は立ちあがる殿の浴衣のすそをつかもうとした。


「おなごよ。」


 と、殿もテノールでいい声だ…。


 また女の子が殿を見て顔を赤くする。


「おなごというものは、


男子に好かれるのが幸せじゃ。」


 殿はへべれけ天使をみた。


「お主、好いたおなごがこうして、


生きておるのだ。


男子として力づくで物にしてみせようという


心意気はないのか?」


 殿ぉぉ!!


 力づくだなんて!!


 犯罪だよ!!


「ッー…。


アンタの、言うとおりだ。」


 金剛力士像は立ちあがった。


 何!?


 今度は、何!?


「お、お前は、古き良き男の中の男だぁ!!」


 確かに、殿は平安生まれのだいぶ古い男ですけど!!


「うむ!」


 そして、二人は固く抱き合った。


 もう、天使の面影がない金剛力士像が、


 オスの目をしてみゆきちゃんをみおろす。


「て、てつちゃん…」


 みゆきも熱でかすれたような声をだした。


 なんか、うまくいきそうだ。


 僕らがそっと個室を後にしたら、


「みゆきぃぃ!!」


 あいかわらず天使の声、


 ウィーン少年合唱団に入れそうだ。


「てつちゃぁん!!」


 二人は熱く抱擁したのだろう。


 しかし、その瞬間、


「おえ~~」


 べちゃべちゃって汚物ちっくな音が…


「きゃー!!」


 みゆきの悲鳴。


「おえぇぇ~~」


 金剛力士像は戻してしまったらしい。


 僕は面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ、と、


 殿の背中をおして入口にむかった。


 伝票がおきっぱなしだ。


 もう、いい。


 てつちゃんに支払わせてしまおう!!


 僕らは外にでた。


 その瞬間、いくつものライトに照らされて、


 僕と殿は目もとを腕でおおった。