夢中で走った。

気持ち悪かった手の感触を振り払うために。



走って走って…



「お…っと」


理解するより前に右肩に痛みが走って
バランスを崩して、そのまま倒れてしまった。



「君、大丈夫?」


「…あ。
すみません、急いでいて…」


手を取って立ち上がらせてくれたのは、

綺麗にスーツを着こなした男だった。



35歳くらい?
40手前かな。


優しそうで、高貴な雰囲気の男。

住む世界が違うセレブな匂いがした。



「怪我は?」

そう聞いて、衝撃で落ちたバッグを拾って持たせてくれた。


「平気です。
ありがとうございます」


「それは良かった。
気をつけてね、お嬢さん」


さらりと言い残すと、彼は微笑んでタクシー乗り場の方へ向かって行った。