「もう帰るの?ユキちゃん」
何人か男を見てきたけど、
帰る時に必ずこの台詞をみんな言う。
可笑しくて笑っちゃう。
彼らは何を夢見ているんだろう?
わたしたちは
所詮契約で繋がれた関係なのに。
「帰るよ。
わたし、明日早いから。
またね」
踵を返して早歩きで立ち去るわたし。
「待って」
声と共に強く捕まれるわたしの手首。
こんなこと、慣れてるはずなのに、なぜかいつもぞっとする感触。
やだ。
「離して!」
意識していないのに出る、不必要に大きな声。
上ずって少し震える声。
「もう少し一緒に居てよ。
もっと払うから良いだろう?
今日は何もしてないじゃないか」
財布に手をかけて男がねだる。
嫌に決まってるじゃん。
わたしは帰らなくちゃダメなのよ。
それに何もしてないのは、あんたがご飯に誘ったからでしょ!
「離して!
お金はもういらない」
まだ掴まれたままの手を乱暴に振りほどいた。
そのまま、即行駆け出す。
「さよならっ」
わたしは追い付かれないように必死で走った。