夏じゃなくても咲いている…

「ひ・ま・わ・り!(薬局)」

可愛い犬と男の子の看板…

「(犬)の・フ・ン・は(持)ち(帰)り・ま・し・ょ・う!」

元気に大きくはっきりと。
ゆきの散歩はまだまだ続く。


横道から突然の突風。
帽子を慌てて押さえつける。

細い路地の向こうから、やってきた風をやり過ごす。
路地を見つめると、呼ばれているような気がして、心臓が早く鳴り出した。

一歩、また一歩と足が動く。
いつもの道をはずれていく。

路地の先には小さなお家。

つたが絡まるその家の、ドアノブに引き寄せられて、手をかける。

見上げると、古びた看板がこちらを見ていた。


「し・あ・わ・せ(屋)」


きしんで開くドアの音。
今日はなぜだか、怖くない。

ゆきの散歩道。

小さな彼女の、大きな冒険の始まり始まり。


―――終わり―――