昼時、大久保はある店で人を待っていた。時間帯から、中はランチの客で一杯だ。
そんな中、大久保は、ため息を吐きながら窓の外を眺めた。

(…有川先輩、おっせえなぁ…)

大久保は携帯を出し、暇潰しにテレビを見始める。
と、窓の外の通りの向こう、信号待ちをしている有川を見つけた。

(あ、来た来た…………はぁ…会社の女達が騒ぐはずだよ…)

大久保の目に写る有川は、スラッと背も高く、ピンストライプのスーツがよく似合い、信号待ちの姿さえも絵になる。

(隣のOL、先輩にみとれてんじゃん…神様は不公平だよ…)

入社3年、未だ通った企画が無い自分に対して、有川は2年先輩で、常にチーフというポジションに就いている。
見た目だけでなく、仕事ぶりまで月とスッポン。
一緒に飯を食うのも憂鬱になる。

(先輩みたいなら、仕事も楽しいんだろうなぁ…)

しかし、有川は携帯を取り出すとその場で深く頭を下げ始めた。
見たこともないその姿に大久保は目を丸くした。

「悪いな、待っただろ?」

電話を終え、携帯を机の上に置き、ネクタイを緩めながらやって来た有川を大久保はポカンと見つめた。
有川の携帯の隣、遊び機能が一杯の自分の携帯を思わず隠す。

「あ…で、電話、誰からだったんすか?」

有川が黙ったままの大久保を見つめるので、慌てて会話を持ちかける。

「ああ、今まで行ってたとこの工場長さんだよ。予算内であの部品、作ってくれるってよ。
粘った甲斐があったなぁ〜これで、あの人形がピョコピョコ動くようになるぞ〜!」

嬉しそうに笑う有川に、大久保はますます言葉が無かった。

「なあ、今度はお子様ランチのオマケなんてのも面白そうだと思わないか?」

有川は向かいの席の親子連れを見て言った。

「…はぁ…」

「……どうした?」

「いや…俺、先輩が頭下げてんのとか見るの初めてで
……頭、下げんのとか辛くないですか?」

見られてたか…と笑い、でもな、と有川は続けた。

「俺らの作ったもん見て笑う子供の顔見たら、んなもん苦にもならねぇよ。」

癖になるぞぉ〜と笑う顔の方が子供のようで、眩しかった。

仕事の話しばかりして店を出た大久保は、携帯を開けて担当先にダイアルした。

おわり