瑛子は、真新しい乾燥機を覗き込んだ。
「きれいだ・・・。」
なんだかうれしい。

洗濯乾燥機4台、乾燥機4台、大型2台。
そのうち、まだ壊れていない乾燥機2台を残して、すべて新しくした。
普通のコインランドリーよりやや狭い店内だ。
住宅地の中にひっそりと佇む。
裏には、ちょっとした森があり、夏にはさわやかな風が吹く。

先週までは、白木蓮の花が満開で、とてもさわやかな甘い香りが漂っていた。
ピンク色の木蓮の方が、香りは無いが色が気に入っている。
ちょっぴり、お店にも飾っていた。

今週は桜が満開だった。
しかし、

昨日の風ですかっり散ってしまった。

ちょっぴり、寂しい・・・。

あれから。5年回目の春になる・・・。


瑛子は、仕事場が東京都内だった為、祖父母とは離れて生活していた。

それなりの収入。
それなりの仕事。
それなりの私生活。
何不自由ない生活。

一変した。

祖父母が、交通事故で亡くなったのだ。
急なことに驚き、動揺した。
おととい、会ったばかりだった。

私が、祖父母の家から帰る時、ニッコリ微笑みながらいつものように言った言葉。

「きよつけて、帰るんだよ。またね。」

祖父母の最後の言葉だった。
 
私が、幼くして、両親は離婚し、母方の祖父母と母と4人で暮らしていた。
私が3歳の時に母は、病で亡くなった。

それからは、祖父母がわたしの面倒を見てくれていた。
二人とも、とてもやさしかった。
とても、大切に育ててくれた。


1週間以上泣いた。ずっと泣き続けてた。
悲しくて、寂しくて、死ぬほど、孤独だった。
泣いても泣いても気分は優れかった。

すぐに、仕事は辞めた。
事務職だったので、会社では居ても居なくても同じ状況だった。
無責任かもしれなかったが、それ以上に後悔の方が大きかった。
なぜ、祖父母の元に居なかったのか。


30歳の時だった。
祖父母の死をきっかけに、東京で生活をしていた瑛子はここへ戻ってきた。

一人ぼっちに、なった。

瑛子に残されたのは、ちょっとの遺産とコインランドリー。

祖父母が大切にしていた、このコインランドリーを継ぐことを決心した。