居酒屋を出て、歩きながら横田は言った。
「理奈ちゃん本当に小さいよね。襲われたらイチコロじゃん。」
「え~?店長さんになら襲われたいです。」
酔いに任せて言葉は出る。本音は気が緩んだ隙にすべりこんで落ちてゆくものなのだ。
彼は立ち止まり、私は酔っ払い特有の笑いがまだ少し浮かんでいる彼の中の、真剣な目をたどりながら言った。
「好きに、なっちゃいました……。」
「あ、って言っても。言いたかっただけなんで。気にしな…」
彼のあたたかさが私を包み、私は言葉を失った。飲みながら、彼が少しは私に好意を持ってくれているのかもしれないとは思っていた。ただそれは後輩としてかわいいと思っていてくれる部類であるのかもしれなかったし、これを告げる事で彼にフられてもバカにされても、それはそれで私は幸福だったのだ。
抱き締められて、時は止まり。私は幸せだった。
想いを告げる前から失恋していたはずなのに、だからこそ伝えずにいられなかったのに。それがこんな幸せを紡ぐなんて。
私はまだ若さを武器にする事が出来たし、若い上に酔っているとなれば恐れるものなど今には存在しない。