彼と酒を飲んだのは、五日前の事だ。彼は珍しくひどく酔い、「お前に幸せになってほしい。」と言った。その言葉は、彼が私に与えた言葉の中で最も残酷な響きを私に残した。
そして千鳥足の彼をいつもの様に家へ連れていくと、彼は私に初めて「愛してる」と告げたのだ。

私は酔っているのに幸せにひたれない自分を初めて惨めだと思ったし、何か恐ろしいものが始まろうとしている事を悟らずにいられなかった。

決断を下そうと思った時には、結果はすでに決まっているものだ。

それでも私は眠れずに、終わろうとしている今に広がっている幸せを必死にこの身体に染み込ませようとしていた。

私は、彼の眠る隣で泣いた。

彼と過ごす様になって一年半がたっていたが、その一年半を自分の中に沈めてまた今を紡いでゆける程に私はもう若くはなかった。
形の若さに甘んじるにはあまりにも多くのものを飲み込む事を覚えてきたし、あまりにも愛する幸せを味わいすぎていたのだ。