一度だけ。彼を愛するようになってから、他の男と映画を観に行った事がある。その男が私を好きだという事が私はわかったけれど、その男が私を見つめる瞳には彼程の悲しみはなく、あまりにもまっすぐな好意であった。
私はその男が好きになれたらいいのに、と思う虚しさと罪悪感に襲われて彼への愛を募らせたままに家に帰ったのだ。

一人を愛する事は、苦しい。その相手だけしか愛せないという事を、日常は痛い程に体に刻んでゆくものなのだ。
私の頭の中に彼はいつだっていたし、私の中から広がった彼への愛は心地よいベールとなり、いつも私を守っていた。