私と彼は、会うといつも求め合う事しか知らなかった。それはお互いの今を奪い合うようでもあったし、その苦しさはいつも私が押しつぶされるギリギリのところで彼に抱かれて消化されていた。
幸せは味わい、それにひたる事で満足できる種類のものである事を私は知っていたし、それ以外の感情を二人の時間に持ち込むには、私達はあまりに二人の今を大切にしすぎていた。
二人で眠る夜、私はいつだって泣けるくらい幸せだったし、涙も出ない程にせつなかった。彼が隣にいると私はいつだって海にかえっているような気持ちになっていた。彼を愛せば愛するほどに私は歳をとる事を恐れたけれど、私はきっとどんどん子どもの頃よりさらに前の自分に近付いていたのだと思う。
私が彼の寝顔を眺めていた時、彼は目を開けて私の瞳を見た。そこで私は彼の悲しみを知り、彼の腕の中で眠った。
彼が帰った後にはいつだって部屋の中に愛しさとせつなさがあふれていた。それは今から彼が帰る幸福には少しもにじんでゆく事などなくて、私はすぐに換気をせずにはいられないのだった。