先を行くルーのランプがゆらゆらと揺れる。
まだ、行ったことのない館の奥へ向かっていた。
「この部屋だ」
ルーがゆっくりと扉を明ける。
暗い部屋の中に、レイシャをさらった吸血鬼が鎖に繋がれていた。
心臓から少しずれたところに私の銀のナイフがざっくりと刺さっている。
充血し見開かれた目は上を見たまま何も映していなかった。
生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。
「紫焔も可哀相なことをする。それだけは同情に値するな」
ハーゼオンは捕われた吸血鬼に近づくと、しゃがんでその顔をまじまじと見た。
「本当は男なんて勘弁願いたいんだけど。
仕方ないか」
そう言い終えるのと同時に、ハーゼオンの尖った牙が男の首を捕らえる。
「うぅ…ぅ…」
吸血鬼が微かに呻き声をあげ、抵抗しようと片手をあげた。
構う事なくハーゼオンは牙を立て続ける。
血を吸われた吸血鬼は見る見るうちに痩せ細っていく。
干からびた腕は枯木のようだ。
自身の体重を支えきれなくなった吸血鬼の体が、ばきりと大きな音を立てて、腰から折れた。
「ああぁぁぁああぁぁ」
甲高い悲鳴に耐え切れず、私は目を逸らす。断末魔はやがて小さくなり、消えていった。
「終わったよ」
ハーゼオンの言葉に視線を戻すと、そこにはただの砂と化した吸血鬼がいた。
…吸血鬼の残骸があった、の方が正しいのかもしれない。
「ハーゼオン」
「なに」
不意に、ルーが私を守るように立ちながら、ハーゼオンの名を呼んだ。ハーゼオンは無表情のまま砂を見下ろしている。
「お前はハーゼオンだよな」
「……そうだよ。でも直系の血を取り込むのは久々だから、気をぬくと乗っ取られるかも」
ハーゼオンは血で汚れた口元を乱雑に拭うと、暗く笑った。
「しばらくはうなされそうだなぁ。でも、強い血が手に入ったからよしとするか」
背筋がすっと寒くなる。
怖い。
私は、青髪の吸血鬼から感じるものと同じ恐怖をハーゼオンからも感じていた。