落ち着きを取り戻すためにルーは紅茶を飲みほすと、一息ついた。


「こいつは、自分の意志以外で吸血鬼になった奴の面倒を見てるんだ。それ故に、赤赦。赤き血を赦す者」

「俺は色による尊称を持つ吸血鬼の中で唯一の元人間だしね」

「…そうなの?」


そういえば、噛まれると吸血鬼になるのだ。元人間であってもおかしくはない。


ハーゼオンはふと遠くへ眼差しをやった。明るかった表情に影がかかる。


「昔、黒の奴に噛まれてね。

青珀のように生れついての吸血鬼を始祖と呼ぶんだ。始祖は大概並外れて強い。その始祖に噛まれた吸血鬼を直系と言って、俺はそれにあたる。

始祖ではない俺は尊称持ちの中で一番弱い」

「ただその分、赤は眷属が多いんだよ。逆にうちの勢力は吸血鬼自身が実力者であっても、すぐに動ける戦力は俺しかいない」

「俺は青を後見に持ってることで他と同等に並べて、反対に青へ他勢力の情報や戦力の提供をしているわけ」

「こいつはちゃらんぽらんだけど、面倒見はいいから、あの二人をこのままここで眠らせておくより、こいつのとこで過ごした方がいいと思うんだ。

…花嫁はどう思う?」


突然話を振られて、私は戸惑う。確かにハーゼオンは悪い人ではない。

でも、この国から遠く離れることを彼女たちはどう思うのだろうか。


「この館においてあげることはできないの?」


静かにルーは首を振った。


「置いてもいいけど、…眠らせたままになるな。始祖とは違って、普通の吸血鬼には人の血や生気が必要になるから。

その点こいつのとこは、上手く人と折り合うことに長けている」


一生眠らせたままというのは可哀相だ。

だけど、彼女たちがここで吸血鬼として暮らせば、やがて彼女たちや私の家族や友人の血を奪うことになるのかもしれない。

知らない誰かの血ならいいというわけじゃないけれど。


「ルーは、この人のことを信用しているのね?」

「一応それなりに」

「ならきっと、それがあの子たちにとって最良なことなんだと思うわ」


もうここは、人の領域ではない。私の求めるような正しい答えは見つからない気がした。

私は自分の無力さに、深くため息をついた。