「む~う…」



──…レヴィオル国勇者の城、法帝の執務室。


その部屋の主であるイルは、帰ってくるなり飛び付いてきた三児の赤ん坊を抱きながら唸っていた。







『…ただいま』



待つこと三時間、水色の光の中に再び現れた彼は、そう言うと薄く微笑んだ。


イルは、何故かその笑みが忘れられない。



男の人に言うのも何だが、…綺麗で、儚くて。



けれどそれからの彼──アレンは、いつも通りで特に変わった様子はなかった。





「なぁーに唸ってんだあ?イルぅ」



数時間ぶりの奥さんの腹に腕を回しくっついている一番大きな赤ん坊ギルクは、何だか難しい顔のイルをきょとんとして見上げる。

帰って早々執務中の妻は、ペンを進めては止めて唸り、持ち帰ってきた紅い石を見ては溜め息をついていた。


同じようにギルクの背中の上の双子が自分を見ているのに気付いたイルは、苦笑いするとちょっとねぇ、とぼやく。




「アレン、また何かあったんじゃないかなぁって思って…」

「アレン?あいつは確か今教皇様のところだろ?」

「うんっ。これからの相談するんだってー」


側近と二人北の大陸に残った彼に想いを馳せる。


また無理してなきゃいーけど、と心の中で一つ嘆息し、イルはまたペンを走らせた。