「アレン」
「……………………。」
「おい…、アレン」
高笑いする黒。
伏せる、姿の変わった父。
それらを見たまま、アレンは微動だにしなかった。
──…正確には、動けなかった。
「アレン…っ、戻ろう」
「……ルティ…」
今まで自分を拘束していた海賊王が、ぐい、と腕を引っ張る。
彼は一度飛び出そうとしたアレンを羽交い締めにし、その場に押さえつけていた。
ルルもキュンと一つ鳴くと鼻を押し寄せ、アレンを立ち上がらせる。
その間もアレンは赤い血溜まりの中に倒れる彼を見ていた。
「アレン…、行くぞ」
「……ん…」
上の空で返事をするアレン。
ルティはがっちりと彼の腕を掴んだまま、腰を屈めルルの首輪に触れた。
途端に、そこから広がる水色の魔法陣。
「……あいつ…、あの短剣…」
去り際に囁いたアレンの言葉は、魔法陣が巻き起こす風にかき消された。
すりすり擦り寄るルルに視線を落とし、アレンは目を伏せる。
「ウィスカ…さよならだ」
ルティの言葉を最後に、視界は光に満たされた。
そうして二人と一匹は、14年前に別れを告げる。
耳の奥では、魔王の高笑いが未だに響いていた──…