さらりと言ってのけ、クルーズはクスクス笑った。

魔王はそんな彼をうろんげに見てから、今はその43代目勇者と同じ容姿の42代目に目を移す。


〈貴様も甘いものだ、部下なんぞを信用するからそうなる〉

「あれ、自分とダーチェス様のこと言ってる?」

〈黙れ。用が済んだなら奴等が目を覚ます前にさっさと失せるがいい〉


先程のクルーズの魔術で気を失った人質を顎で示し、魔王はクルーズを急かした。

わかってるよ、とかぼやくクルーズはそそくさと足元に三度目の魔法陣を広げる。


「じゃあ、さいなら魔様。ご協力あざしたっ」

〈二度と我の前に現れるな〉

「えらい言い種だね。まっ、いいや。じゃあねー」


ヒラヒラと手を振り、光の中に消えるクルーズ。

やがてその光もなくなると、そこにはもう誰もいなかった。


それを見届けた魔王は、くつりと笑むと空を見上げる。



〈邪魔者はもういない。他はこの力さえあれば手にとるに足らない…。ふふ、我の時代のはじまりだ〉



直にこの国に君臨することを想像し、魔王は高らかに笑い声をあげた。


澄んでいた青空は、黒き存在に呼応するように曇り空となっていた──…