「な、んで…」


驚きと痛みに上手く声も出せないウィスカの胸から、43代目が短剣を抜く。

ズル、と嫌な音がして、一気にそこから血が溢れ出した。

ガクン、と膝をつくウィスカ。


それを見下ろす43代目勇者──クルーズは、至極穏やかに笑った。



「クルー、ズ…?」

「こんにちは、今日ぶりですねウィスカ様」


何とも好印象な笑顔だが、持っているのは血塗れた短剣。

不釣り合いにも程がある。


見慣れたその笑顔と自分の血がついた短剣に、信じられないのかウィスカは少し笑ってしまった。



「は、お前…、操られ…?」

「違いますよ」

〈そやつは我の仲間だ〉


きっぱり断言するクルーズ。

更に追い討ちをかける魔王の言葉に、ウィスカは目を見開いてから悔しそうに歯を食いしばった。



「お前は…、もう手遅れだったのか…?」

「…何がですか?」

「きっと気付いてくれるって、…思ってた」

〈ふん、戯言を〉


ウィスカの言葉も、魔王に切り捨てられクルーズには届かない。

水溜まりのように広がる赤いそれは、止まることなく彼の胸から流れ出ていた。