飛んできたのは、真っ黒な剣だった。

地面に刺さって消えていくそれにデジャヴ。


アレンが魔王を倒したときと、同じ。



〈くっ…〉


剣で挑んだ魔王は、目の前に立つ男を見て表情を歪めた。

ウィスカは微笑むと切っ先を黒いそれに向ける。



「意外と弱いな。魔力を扱いきれてない」

〈…貴様…〉

「どうする?退散するか?」


囁くウィスカの剣に、籠る魔力。

その様子にアレンは目を見開いた。


魔力で剣を強化している。



──…自分と、同じように。




〈まだだ〉


低く這いずるような声で言い、魔王は魔法を発動する。

しかしそのどれも未熟で、アレンと戦ったときとは比べ物にならない程弱かった。


ウィスカはあっさりかわしてこちらも魔法を叩き込む。



「もうやめなって。帰れば?」

〈黙れ…そう言ってられるのも今のうちだ〉


まだ食い下がる魔王に、勇者は困った顔をした。

明らかに劣勢なのに、何をそんなに。




「おいおい…?余裕じゃねぇか」


戦闘を見守っていたルティも拍子抜けしたように言った。

じっと見ていたアレンは、父の勇姿に釘付け。



(…強い)



魔王が弱い訳ではない。


…ウィスカが、強すぎるのだ。