「ここら辺立っといて」

「おう!」


使う“魔術”はあの封印の日、イルの位置断定で居場所がバレないようにと使ったもの。


まず右後ろの首筋に手を宛て、封印した魔力を少し開放する。

そのまま足元に広がった金色の魔方陣は形を変え、更に複雑なものとなった。


その状態で呪文を呟き、今度は魔術を実行する。



「おお…」


自分にふりかかった金色の魔術に感嘆し、ルティは声をあげた。

集中していたアレンは魔術が終わると伏せていた目を上げる。


「すげーなあアレン」

「…イルには劣る」

「まあそりゃイルちゃんは法帝だからな。でもすげーよ!」


実際、魔力は強くとも魔法や魔術を実行する速さや正確さはイルの方が何倍も上だ。

そのかわり剣士であるアレンは自身に素早さがある。



「…イルも待ってるな」

「あぁ。早いとこ見て帰…、!」


頷いたルティ。

しかし返事の途中で、彼は言葉を切った。



原因は、ドンと地に響く一瞬の揺れ。

そして感じる、──…異様な気配。



「魔王が来たか」


天井を見上げるルティとは反対に、アレンは床を見下ろした。


魔王の“闇”の魔力を感じる。

魔力を吸収する筈の床と扉は、その役割を果たしていなかった。