サラサラサラ…



ペンの滑らかに走る音が静かな部屋に響く。


自分の執務室でひたすら仕事に集中していたレイは、突如ペンの音に混じった靴音を聞いて顔を上げた。



「帰って来たかしら」


呟き立ち上がって扉を少し開け、ひょこりと顔を出し廊下を見渡す。


目的の人物はやはりそこにいた。




「やっぱり。おかえりなさい」


「あ、ただいま」


声をかけると自分に気付き、相手は柔らかく微笑んでくれる。


ちょうど隣の勇者の執務室に入るところだったアレンは、一旦それをやめてレイのもとへ来た。




――…即位二年の記念式典から、もう一ヶ月が経とうとしている。




二人の関係の発展は、未だにないまま。






「あら、ご機嫌そうね。視察だったんでしょう?」


「あぁ、うん。カルアシティ」


「珍しいのね。何かあったの?」



レイは首を傾げてアレンを見上げ、彼がご機嫌なのが嬉しいのかふふっと小さく笑った。



アレンは頷くと彼女に向けて自分も微かに笑う。