「あなた、ドジばっかり踏みながらなんだかんだでお客さんやみんなに愛されて…そこそこお金だって貯まったはずなのに…そんな粗末なナリをして…まだ故郷に送金しているの?」

りささんは心配そうに表情を曇らせて
私を眺める。

(…直視しないのは憐れみのつもりかしら)

今度は口に出さないようにして
私は 違うよ と笑った。

小田急は代々木を通り過ぎ、
漸く人が乗り込んできたようで。

それでも桜の匂いは消えなかった。

「…ねぇまりちゃん、天国ってあると思う?」

外を眺めているのか、
私と視線を合わさないまま
りささんは呟いた。

多分ずいぶん離れた場所を眺めているんだろう、りささんたら
あんな遠い目をして。

「…ないと思いますよ、だってなかったですもん」