緑に宿名が黒で抜かれ、なかなか味のある浴衣を纏って、私は大浴場を出た。
「きゃーかっこいい!!!!!」
脇から女子の雄叫びが聞こえる。
どう見積もっても軽く七人はいる。
やたらに恐ろしいからスルーに徹して通過しよう。
「今日どこの部屋に泊まるんですかぁああ?私たちずっと前からファンでぇえ」
「行っちゃだめ?ねえ~太郎さん…お願い~」
女の甘えた声ほど 胆が詰まるものはない。
私は淡々と脇の八人を通過する。
「さてどうするかねぇ…
って花子!
花子おまえなんでそんなスルースキル上がってんだよ!!!」
…やはり甘かった。
あわよくば気づかれないのでは という
甘い期待はすぐさま裏切られた。
私は都市伝説のターボ婆さん並のエンジンで走り出す。
「花子…おまえ…」
後ろからしょんぼりしたような声が聞こえたが、
私の音速には太刀打ちできまい。