私は素早く退散しようとするが
かん高い声は、私を引き止める。

「待って下さい!なにかお礼を…」

見たところ声の主家族連れのやや中年期、肝っ玉母さんといった風情だった。

「いえいえ、私は何も…」

「いえ!この目でしかと見ました!ひったくりに対する容赦のないボディーブロー。久しぶりにいいパンチを見ました」

「すいません私京子じゃないんで…
では…」

「すいません!ではせめて名を…」


私は
人ごみに消えかかりながら

振り返って にやりと告げる。

「マ リ ア」