「…容保公はどんな気持ちでこの桜を見ていたんでしょうね」 ぽつりと住職は呟いた。 桜は呼応するように ざぁと声をたて、風に揺れて 花を散らす。 この美しい建物が為に 桜は大喜びで散っていくように感じられて、 私はふとなぜか涙が出そうになった。 住職にぺこりと頭を下げ、 私はすたりと歩を進める。 「…もしかしたらここは…天国かもしれないわ」 少なくとも、彼にとっては―。 と小さく私はぼやいた。