黒一色のたてながという
ひどく単純なフォルムなくせに
なぜか私が一瞬目を合わせたら
途端にオレンジの記号を映し出した。
そのオレンジの記号が
文字だと気づくなんて、いつもの事だった。
そう、いつもの―…。
「下北沢で…人身事故…」
オレンジの記号は、私にある人をすぐに脳裏に浮かばせた。
「天国って、あると思う?」
先輩のあのうつろな笑顔が言葉が
私の足取りを急かすように、
オレンジの記号と人々は
比例しているように せかせかと
動き始めた。
「今下北で電車止まってるって」
「どうすんだよ!会社に行けねーじゃねぇか!」
「振替はあるのかよ!」
そんな声は背中で聞き流して、
私の足はただ下北沢へ急いだ。