「先生。あたし先生のことが好きです」


時計の針が一周を回る前にあたしは藤木先生に気持ちを伝えたはずだった。

だけど先生はあたしに一度も触れず、この部屋を去った。

たった一言をあたしに残して。


「ごめん。俺、やっぱり七瀬先生のことが諦められないんだ」


海の香りが遠ざかる。

愛しかったあの背中はもう見えない。

触れてほしかったあの温もりはここにない。



ねえ、クロ。



ーー涼子は狂ってるよ。



違うの。
そうじゃないの。

ううん。そうなのかもしれない。


心のどこかでぽっかりと大きな穴が開いて、あたしはぬくもりを探さずにはいられない。

あの時からずっと求めずにいられないの。


誰かに抱きしめてほしくて、このどうしようもない欲望と寂しさを埋めてくれたのがたまたま彼だっただけ。

たった、それだけ。