「そっかあ。田中くんごめんね。放課後にここに来る人なんてあたしたち以外いないから勘違いしちゃった」


ぜんぜん悪いと思っていないようなフワリとした笑顔で彼女は右手を差し出した。


「あたしはベース担当の溝口優香。よろしくね」


「…どうも」
今時初対面の人に握手を求めるなんてやっぱり変わってる。
少し戸惑ったが断わる理由もないのでその手を軽く握った。


満足そうに微笑むと溝口は赤いベースを大事そうに抱えイスに座る。
なんだか見ていられなくてすぐに目をそらした。