情事の始まりが、濃厚であろうとも。
終わりなんて、実に呆気ない・・・
「早く準備しろよ――」
「はい…、申し訳ございません。」
冷たい言葉が、演技派のなりを潜めさせる。
だから、ただの秘書に戻ってしまう。
社長はネクタイをキュッと、締めてから。
少し乱れた髪を、手櫛でサッと整えている。
優雅ささえ漂う、その光景を追ってしまう。
ベッドから動けない私は、いつも置き去り・・・
「あと30分で出発する――」
「かしこまりました…。」
爽やかさを纏って、いつもの社長に戻る。
バタンッ――
社長の退出を告げる、重厚な扉の音。
秘密の部屋へと、取り残されたのは。
お役ご免の私と、ホワイトムスクの残り香・・・