だから、ずっと離れるトキを恐れていた・・・
この香りも、瞳の色も、何もかもが愛しくて。
どうしたって、忘れられそうにナイ。
激しく脈打つ鼓動が、それを物語っているから。
時限を止めて欲しいと…、妄り(みだり)に思ってしまう。
すると、社長の瞳がゆっくりと閉じられた。
その仕草でさえ、心がズキンと疼いてしまう。
「今すぐ、予定をキャンセルしろ」
「え…、か…かしこまりました」
社長の発した一言で、やっと覚醒した私。
過ぎゆく時間が、仕事中であると――
「そ、それでは・・・
私はこれで…、申し訳ございませんでした…」
瞳に残った涙を拭うと、そう言って立ち上がった。
自覚した途端に、居た堪れなさが募ったのも事実。
一刻も早く秘書課へ行き、連絡をしようとしたのに・・・
グイッ――
無防備な左手首が、一気に捉えられた。
「仕事なら、此処で済ませろ」
「っ・・・」
掴まれた手首が、急加速で熱を帯びていく・・・